地域連携センター長からのご挨拶

 2022年4月の本インスティテュート設立と同時に、地域連携センターが設置されました。近年における大学の重要な役割のひとつは「地域連携」です。近年、多くの大学と地域のコミュニティ(共同体)とが協力関係を構築し、大学の専門的知識や最新の研究成果を地域やコミュニティに発信することによって、一緒になって課題や問題に取り組んでゆくプロジェクトがさかんに試みられています。このことを通じて、大学も地域社会の一員なのだという認識が社会に広く普及するようになりました。

 神戸大学のなかには、歴史のある地域連携推進本部をはじめとして、多くの研究科がすでに地域連携を目的としたセンターをすでに設立しており、多様な連携プロジェクトを実践して成功させてきました。

美山かやぶきの里 春
一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会 提供

 2022年4月から発足する国際文化学研究科の地域連携センターは、従来のほかの地域連携センターではあまり実践されてこなかった新しい課題を見つけ、それに取り組むことによって、本センターの独自性と存在意義を見出したいと思います。

 本センターの独自性とは、“グローバル化によって急速に変容した地域社会の諸問題に取り組むこと”です。グローバル化の急激な展開によって、地域社会や地方都市に海外からヒト・モノ・カネが劇的なスピードで地域社会に入ってくると、さまざまな軋轢や衝突が起こります。現在は都市部だけでなく各地方都市や山村部などにおいてもグローバル化が進行して、海外からの旅行者、技能実習生、留学生、そしてそれらの家族たちも含めると兵庫県内では約11万、神戸市内でも約5万人の外国からきたひとたちが暮らしているのです。私たちはそれに対して、多様性や寛容性、そしてレジリエンス(心の柔軟性)をもちながら、地域社会の活性化に進んでゆかなければなりません。多様性を持つ社会は、多様で豊かな文化を生み出すものです。地域社会は、新しく入ってきたひとたちが持つ多様な言葉、習慣、文化、宗教などを目の当たりにし、はじめはとまどうかもしれませんが、最終的には共生してゆく道を探りはじめるはずです。

神戸映画資料館外観
協力機関 神戸映画資料館 提供

 上記のような地域やコミュニティにおける多文化社会の実現に少しでも近づくために、私たち国際文化学研究科は、あえて「国際」と名の付く研究科内に「地域連携センター」を作りました。60名を超える国際文化学研究科の各教員は、それぞれが世界各国や地域のスペシャリストであり、本インスティテュートには国境を超える移住や移民の諸問題を考えるセンターも設置されていることからわかるように、本研究科は“地域社会におけるグローバル化の諸問題”にもっとも対応できる知識と経験を積んだ集団だといえます。

 大学とコミュニティとの共同作業から生み出されるあらたな地域活性化モデルが、この地域連携センターから生み出されることになるでしょう。みなさまの積極的なご参加をお待ちしております。何か連携プロジェクトに関するアイディアがございましたらお気軽にまずは地域連携センターへご連絡ください。

地域連携センター長
板倉 史明

センターの目的と理念 

 地域連携センターは、「グローバル化する現代世界の文化変容を多角的に研究する」ことを理念のひとつとする国際文化学研究科の考えに基づき、国際文化学研究科と地域の団体や組織とが連携することによって、地域社会の課題や問題の解決に取り組んだり、地域の活性化を生み出す共同研究とその成果発表を実施する研究センターであり、同時に各地域とつながるための「空間」生み出すことで、地域連携センターと近隣コミュニティとの連携強化を図ることを活動の目的とする。

客席
協力機関 淡路人形座 提供

 グローバル化はヒト・モノ・情報などを急速な流動性を飛躍的に高めてきた。グローバル化が急速に進むなかで、大都市だけでなく従来あまり多文化との交流が少なかった地域社会にも、外国から来た旅行者や仕事を求めてやってきた技能実習生などが流入してきた。多くは心温まる交流が行われ地域の活性化に寄与した事例もあったが、その一方で、異なる文化や習慣に基づいた摩擦や軋轢も目立つようになった。

 地域連携センターが属している大学院国際文化学研究科には60名を超える多様な専門分野をもった教員が在籍しており、特に国外の文化・社会・経済・政治などを専門にしてきたものが多い。さらに近年では国から国へと移動・移住・亡命など、さまざまな理由で国を移動するひとたちが国家を揺るがす大きな政治・経済・文化問題にとなって激しい議論が続いている。本インスティテュートには「移住・移民研究センター」も同時に設立され、そのような移民問題のエキスパートも国際文化学研究科ではたくさん有しているのである。

傾城阿波の鳴門奥
協力機関 淡路人形座 提供

 私たちの研究科の魅力ある人的資源を最大限に活用し、地域のコミュニティと連携することを通じて、問題や課題の解決の道筋が見えてくるかもしれないし、よりそれらの摩擦が起こりそうなエリアにおいて、ひとつの緩衝材になるような芸能や芸術の表現をおこなうイベントを実施することも、地域のコンフリクトを軽減させるひとつの方法である。神戸市および兵庫県の各種機関、企業、NPOのみならず、より広範囲の地域の団体や組織と積極的に連携し議論を重ね、地域社会の不安や軋轢が一つでもなくなり、私たちのひとりでも多くがよりよく楽しく生きることができたらと願っている。