インスティテュート長からのご挨拶

21世紀が「グローバリゼーションの世紀」と言われて久しくなります。しかし、経済のグローバル化が進展することは、同時に社会や文化にとってそのまま「バラ色」の未来を意味しません。この文章を書いている現在もなおウクライナでの戦争状況は継続しており、その影響は国境を越え、世界中に大きな影響を与えています。さらに2年以上にわたって社会文化に大きな影響を与えているCOVID-19のパンデミック、気候変動の影響など、むしろ「グローバリゼーションの光と影」、すなわちグローバリゼーションがもたらす恩恵とともに葛藤と矛盾がより鮮明になりつつあると言えるでしょう。

今日のグローバリゼーションは個々人の身体から生活、コミュニティ、社会、国家、さらには国家を超えるネットワークに至るまで大きな影響を与える複雑な複合的現象です。そこで起きている諸問題には、20世紀的な「専門分野」の視点では十分ではありません。すべての人文社会系分野がそれぞれの叡知を持ち寄って21世紀の課題に取り組む必要があります。「国際文化学」はそのような共同の知を形成しようとする挑戦のひとつです。この挑戦を具体化し、神戸大学国際文化学研究推進インスティテュートは、これまでの蓄積を踏まえ、21世紀のグローバルな課題に答える研究拠点を目指します。

インスティテュート長
国際文化学研究科 教授
岡田 浩樹

国際文化学研究推進センターから国際文化学研究推進インスティテュートへの発展的改組は移住・移民研究センターおよび地域連携センターの増設に伴う組織の規模拡大のみを意味するのではありません。この背景には近年の大学、さらには人文社会系諸分野が転換期を迎えているという状況があります。

近代日本の大学、特に国立大学が19世紀以来のドイツの大学の影響を強く受けていたことはよく知られています。いわゆる「フンボルト型大学」の理念です。しかし、この理念については近年厳しい批判が寄せられているのも事実です。例えば2004年、中央教育審議会おける議論では、「大学人を第一義的に研究者であると自己規定し、最高の教育を自己の研究成果の披瀝であるとする考え方は、主として少数エリートに対する教育を想定して成立するものであり、二十一世紀の今日では歴史的意義を有するにとどまるのではないか」という厳しい批判がなされました。確かに、研究文化の細分化、「たこつぼ化」の批判はこの20年続いています。こうした批判を受け、国立大学は改革に次ぐ改革が続き、いわば「改革疲れ」からか、思うような教育面での高度人材育成の成果が上げられないどころか、研究成果も減少しつつあるというのが今日の現状です。

特に人文社会系諸分野においては、分野やテーマが多岐にわたることもあり、研究科・学部は独立商店が集まった「商店街」のような状況が長く続いてきました。それぞれの商店主(教員)は独立した研究者の気概を持ち、研究教育に誠実に向かい合ってきたものの、大学のグローバル化、さらには大学に及んでくるネオリベラリズム的な効率主義、成果主義に対し、有効な対応はできず、一部の教員に研究、教育、大学行政の負担がかかるような問題が顕在化しています。こうした「苦境」はもはや個々の教員レベルで対応できるものではありません。

今回、国際文化学研究推進センターから国際文化学研究推進インスティテュートへの改組は、これまで個々に進めていた研究者の成果をつなぎ、サポートする体制を整えることにあります。加えて、2つのセンターの設置は、研究科の研究の強みを十全に生かすことにあります。人文社会系諸分野だけでなく、情報系の研究者がいることは私たちの研究科の大きな強みです。そのような個々の研究の橋渡し、個人レベルの研究から研究科全体で取り組む新しい横断的研究プロジェクトの成長をうながすサポートを行うこと、以上の目的に沿ってセンターからインスティテュートへの組織改組が行われました。

今後本インスティテュートの充実と発展に、研究科教員のみならず、学生、さらには学内外の研究者のご支援、お力添えを切にお願い申し上げます。

国際文化学研究推進インスティテュート長
岡田 浩樹

Promisの沿革

国際文化学研究推進インスティテュートのルーツは、2006年7月に発足した異文化研究交流センター (Intercultural Research Center, IReC)に遡ります。当時、国際文化学部では1992年の発足以来、異文化をめぐる教育と研究を進めるなかで、個々の教員の研究成果だけではなく、プロジェクト形式による共同研究においても、広義の文化から捉えられた異文化研究が展開されるようになっていました。この展開を踏まえ、教育と研究の両面にわたる国際文化学部の特徴をさらに発展させるために、統合的な研究組織として、異文化研究交流センターが発足しました。

国際文化学部所属のセンターとして当初はスタートした異文化研究交流センターは、2007年度に国際文化学研究科所属のセンターとしてあらためて位置づけられました。同年度には「アートマネジメント教育による都市文化再生」が「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に採択され、関連するプロジェクトが推進されました。

2008年度に異文化研究交流センターは、地域連携部がアートマネージメント地域連携部と多文化共生地域連携部に再編され、研究部、国際部、アートマネージメント地域連携部(文化政策プロジェクト)、多文化共生地域連携部(地域連携プロジェクト)の4部体制に拡充されました。多文化共生地域連携部では兵庫県国際交流協会との連携事業であるOxbridge English Summer Camp(2007年から実施)が取り組まれるとともに、神戸市定住外国人支援センターや南あわじ市との連携にも事業を拡大し、2009年、南あわじ市と包括連携協定を締結するに至りました。

2008年度にはまた、メディア環境の著しい変化を踏まえつつ、グローバル化の進む現代文化の動態を多角的に研究することを目的とした、メディア文化研究センター(Center for Media and Cultural Studies, CMEC)が国際文化学研究科付属のセンターとして設置され、2センターの体制となりました。この2センターのもとで、国内外の研究者を講師とした講演会や研究セミナーが引き続き活発に開催されていきました。2011年度には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)大学等連携推進室と異文化研究交流センターが研究協力協定を締結し、学外との連携もさらに強化してきました。

2014年、2センターのこれまでの成果と経験を踏まえつつ、財政的資源と人的資源を一元化し、それらをより一層戦略的に活用するために、異文化研究交流センターとメディア文化研究センターを統合した、国際文化学研究推進センター(Research Center for Promoting Intercultural Studies, Promis)が国際文化学研究科の部局内研究組織として発足しました。この国際文化学研究推進センターは、いくたびかの改革を経て、研究開発部門、連携事業部門、国際交流部門、移民研究部門、重点研究部門の5部門に整備され、国内外の研究者と連携したさまざまな研究プロジェクトの開発と推進をおこなってきました。また、学術研究員と協力研究員からなる若手研究員の研究支援にも注力してきました。

2016年には「日欧亜におけるコミュニティの再生を目指す移住・多文化・福祉政策の研究拠点形成」が、日本学術振興会の研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)に採択されました。国際文化学研究推進センターは、この事業実施の中核となり、海外8大学、国内4大学1研究所、および神戸大学内の他の研究科と連携しながら、移住・多文化・福祉政策に関する研究拠点の構築に取り組んできました。

他方で、地域連携においても取り組みの拡大は進み、神戸映画資料館や公益財団法人淡路人形協会といった地域の文化を支える学外諸団体との連携を深めてきました。2017年に国際文化学部が発達科学部と統合され国際人間科学部が設立されてからは、それに呼応して、観光まちづくりといった国際文化学研究科にとって新しいテーマにも取り組みの幅を広げてきました。

こうした一連の取り組みの展開を踏まえ、2022年4月、国際文化学研究推進センターは国際文化学研究推進インスティテュート(Research Institute for Promoting Intercultural Studies, Promis)に発展的に改組し、そのもとに移住・移民研究センターと地域連携センターを設置するとともに、研究開発部門、国際交流部門、重点研究部門の3基幹部門を置くことになりました。この新しい統合的組織のもとで、国際文化学研究推進インスティテュートは国際文化学研究科の研究プラットフォームとして、さらなる今後の取り組みを進めていきます。

シンボルマークの制定

2022年4月、国際文化学研究推進センターは国際文化学研究推進インスティテュートに改組し、2センター3基幹部門を擁する研究プラットフォームとして出発しました。組織はセンターからインスティテュートに変わりましたが、組織の略称としてPromisを引き続き使用し、これまで培ってきた理念とアイデンティティを引き継いでいく気持ちを新たにしました。この改組と継承をきっかけとして、わたしたちPromisの理念とアイデンティティを誰の目にもわかりやすく示すため、このたびシンボルマークを制定しました。気鋭のアートディレクター、グラフィックデザイナーである佐藤大介氏にデザインを依頼。2022年6月21日にお目見えしました。

シンボルマークとロゴマークとの組み合わせ例①

シンボルマーク:当組織の理念を象徴する画像
ロゴマーク:当組織の英文頭文字Promis

このシンボルマークは、Promisの頭文字であるPを吹き出しに見立て、この吹き出しをふたつ、上下に重ね合わせたかたちをしています。ふたつの吹き出しは、異なる者のあいだでの対話をイメージしています。対話がつねに成り立つとは限りません。しかしわたしたちは、対話の可能性を粘り強く探る努力を続けていきたいと願い、その願いをこのシンボルマークのなかに込めました。

組織紹介

移住・移民研究センター

地域連携センター

部門一覧

研究開発部門

国際文化学にかかわる研究開発、共同研究プロジェクト等の推進に関する業務、ならびに研究プロジェクトの研究成果の発信のための大型シンポジウムの企画・開催に関する業務を行います。

国際連携ネットワーク部門

外国の研究機関との連携に伴う研究者の招聘と派遣、協定校からの招聘教員の講演会・特別講義などの企画と開催、外国人研究者の受け入れに関する業務を行います。

重点研究部門

国際文化学に関わる研究プロジェクトのうち、重点的な研究プロジェクトの推進に関する業務を行います。