移民動態と文化適応

日本拠点代表者
辛島 理人
(神戸大学国際文化学研究科准教授)

相手国拠点代表者
周 惠民
(国立政治大学人文科学研究センター長・教授)

 他国への移住の道を選んだ移民たちは、本来祖国の政治的イデオロギーと文化的アイデンティティの束縛から脱却しているはずである。しかし現実は一部の移民またはその後裔はむしろ移住先で故郷への執着を深め、いわゆる民族的宗教的伝統への復帰に執念を燃やしている。その原因はいったいどこにあるのか。ヨーロッパで発生している事件からも分かるように、宗教信仰上の相違にとどまらず、法律に対する理解、地域社会への融合、家族関係など、移民の文化適応は移民自身にとってだけではなく、現地社会にとっても大きな問題になりつつある。たとえば、欧州で増え続ける大陸出身の華僑華人が現地社会との間に大きな隔たりを抱えているのに比べ、日本の台湾人社会は日本の社会との摩擦の事例が極めて少ない。同じ華人でありながらなぜこのような相違が生じたのか。その原因は、日本政府の政策以外に、移民共同体自身の文化的適応力にあると考えられる。それを学理的に説明できれば、政策の提言を行うだけでなく、学術的にも移民共同体の文化適応力をチェックできる新たな視点を得ることができる。