チアパス自治大学先住民研究所(メキシコ)との学術協定の記録(2019年度−2023年度)

本協定はメキシコ、チアパス州と神戸の間で強固な学術的ネットワークを結ぶ基盤となった。ここでは、コロナ禍の最中に模索しながら行われた連携活動の2つの主要な成果、合同国際シンポジウムの開催(2019年度)と書籍刊行(2021年度)を挙げる。チアパス自治大学との5年間の協定は、2024年度よりあらたに社会人類学高等研究所(CIESAS)との協定締結へと展開し、国際文化学研究推進インスティテュートとメキシコ研究機関とのさらなる連携に発展している。

2019年度合同国際シンポジウムの開催

◉ 神戸大学国際文化学研究推進センター/チアパス自治大学先住民研究所合同国際シンポジウム「Materialism of Archive記憶のマテリアリズム」(2019年11月10日、神戸海外移住と分化の交流センター)

グラシア・インベルトン・デネケ教授(当時チアパス自治大学)、ホセ・ルイス・エスカロナ教授(社会人類学高等研究所)、鋤柄史子氏(当時チアパス自治大学客員研究生)をメキシコから招聘し、中谷文美教授(岡山大学)、ジャンルカ・ガッタ准教授(当時神戸大学国際文化学研究科)、南郷晃子氏(当時Promis学術研究員)をコメンテーターに迎えて開催された。「モノ」を主要テーマとして、「Mediality of Archive(記録のメディア性)」「Materialism of Migrating / Crosscultural Memory(移動する/文化交差的記憶のマテリアリズム)」「Discussion: Round Table(ラウンドテーブル討論)」という3部で構成された議論の場には、人類学者、社会学者、説話文学研究者、カルチュラル・スタディーズ研究者が一堂に会した。それぞれの視点が交差しながら、フロアの積極的な参加も加わり、刺激的な議論が展開された。

◉ 神戸大学国際文化学研究推進センター共催国際シンポジウム「「マヤ文明」と「日本神話」−近代知が紡ぐ地の「記憶」」(2019年11月9日、白鹿記念酒造博物館会議室)

ホセ・ルイス・エスカロナ教授(社会人類学高等研究所)と平藤喜久子教授(國學院大學)をメインスピーカーに、鋤柄史子氏(当時チアパス自治大学客員研究生)をコメンテーターに迎えて、近代以降の神話、古代文明のあり方について討論した。近代西欧が形成した知の枠組みのなかで(再)編成された古来の「記憶」について、エスカロナ教授は「マヤ神話を仕立てる——19世紀における新大陸文明の断片」と題した報告を、平藤教授は「植民地主義と日本神話」について報告した。エスカロナ教授の発表を収めた『人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか 拡大する世界と〈地〉の物語』(清川祥恵、南郷晃子、植朗子 (編))が2022年に文学通信より刊行されている。

【関連共催セミナー】

  • 東京大学グローバル地域研究機構ラテンアメリカ研究センターとのワークショップを共催(2019年11月15日、東京大学駒場キャンパス)

受田宏之教授(東京大学総合文化研究科・ラテンアメリカ現代史)の差配により、グラシア・インベルトン・デネケ教授が“Tourism and disputes over space in San Cristobal, Chiapas, Mexico”と題した研究報告とディスカッションを行った。

  • ラテンアメリカ政経学会第56回全国大会特別企画を共催(2019年11月16日、獨協大学)

ホセ・ルイス・エスカロナ教授による講演“Chiapas: transiciones del presente”が行われた。

2021年度書籍刊行

◉ Materialism of Archive: A Dialogue on Movement / Migration and Things between Japanese and Mexican Researches刊行(小笠原博毅、鋤柄史子(編)、2021年、神戸大学出版会)

本書は2019年の国際シンポジウム「Materialism of Archive記憶のマテリアリズム」を全編英語で記録し、さらに日本語での序文と各パートのまとめを加えたものである。人類学、社会学、歴史社会学、翻訳論、神話研究、文献学からカルチュラル・スタディーズにいたる幅広い読者の関心を呼ぶべきものとなった。また英語の校正を入念に行ったことで、いきた英語の教科書としても活用できる質を備えたユニークな書物となった。